私が経験した小雨の朝にキツネのまやかしに出合った話

「キツネの嫁入り」という言葉を昔、聞いたことがあります。小雨が降る朝日が昇りかける少し前の時刻に、山裾につながる灯りが見えるときがあるそうで、これを「キツネの嫁入り」というそうです。

一般的には、晴れた日に小雨が降る時につかわれるそうですが、怖い言伝えでは、これに出会うとキツネのまやかしに遭い、闇夜に誘い込まれるらしいです。土地柄によっても内容が違っているそうなのだけど、急には信じられません。これから話す内容は、私が経験した「不思議な本当の話」です。

場所は神奈川県川崎市某所、某大手製鉄所がある街のこと。当時、千葉県市原市に移り住んでいた24歳の時、長男が2歳を過ぎた頃で妻は長女を出産したばかりでした。梅雨も終わるかなという頃で、その日は知人宅へ行く用があり、時刻は朝5時を過ぎた頃です。

家族全員で出かける予定だったのだけど、妻が身体の調子が良くないということで、長男と2人で行くことになりました。外は小雨が降っていて、暗かった記憶があります。長男を無理やり起こして、車の後部座席に座らせ出発すると、少し走ってから空が薄っすらと青みがかってきました。

少し田舎道ですが、走りなれている道なので心配の欠片もありませんでした。景色は、田んぼと、所々にある自動販売機、古い店構えのタバコ屋とパン屋と酒屋が合体したような店が一軒ありました。他には、いかにも農家という民家がポツリポツリとあるだけでした。

息子は大人しく、後部座席の真ん中を占拠して座っていて、私は時計を見ながら「後、20分で着くな。」と考えながら運転していました。しばらく走ると、交差点の信号が赤で停車して、右角にはさっきと同じ様な店構えのパン屋がありました。

信号が変わり車を走らせながら、ルームミラーで後ろを見ると、まだ、朝早い時間だったので息子は寝ていました。進行方向左手の電柱の下には、古びた自動販売機が見えてきて、時間を再確認してみると到着予定の10分前でした。

「あれっ、こんなに時間がかかっている」と思いつつ走っていると、再び交差点、赤信号で停車すると、左横にまた、古びたパン屋がありました。「あれ、このパン屋はさっき通った場所だよな。」と思いました。信号が変わり、交差点を右折すると、前方にまた、古びた自動販売機。これもさっき見たような気がしました。

外は完全に日が昇り、明るい景色で、前方に空き地があったので車を止めて、現在地を再確認することにしました。25年前の話なので、現在のような「ナビ」などというものは無く、当然、携帯電話もない時代です。景色を見ながらキョロキョロしていたとき、突然として身体中の血の気が引く感覚で、背筋が凍りつく程の違和感を覚えました。

あぶら汗が額に溢れ出すのも一瞬で、とっさにタバコに火を点けた途端、それまでの違和感が消えて、現在地までが理解できた状態になりました。もう一本タバコに火を点けて走り出し、息子には申し訳なかったが、知人宅に着くまで、とにかくタバコの火は絶やさないようにしました。

用が済んで帰路につく道順は、少し遠回りの国道を選んで走りました。帰宅後に妻に話をすると、信用しているのやら、ただの「トンチンカン」だと思っているのやら、わかってもらえませんでした。どちらにしても、世の中には科学で証明できない事は、まれに起こるようで、だから面白いともいえるのではないのでしょうか。